『 〇☓国の物語 』
『 〇☓国の物語 』
遠い遠い昔の話、〇☓国の物語。
この国では十八歳の成人式、子どもたちを船に乗せて大海原に放り出して旅をさせます。
一つの船は「〇号」、子どものころから〇だけ教え込まれた子どもたち。もう一つの船は「☓号」、子どものころから☓だけ教え込まれた子どもたち。それぞれの船に乗って一週間、生まれて初めての船旅をするのでした。
あいにくの天気でしたが、出発の朝は〇☓国の港。
「大丈夫かなあ…」
「私は小さい頃から、ずっと〇しかしていないから、きっと帰れるわ」
「オレだって!もう大人だ!ずっと☓一筋だから帰れるに決まっている!」
ちょっぴりの不安の中、それぞれの子供たちは、お父ちゃん、お母ちゃん、兄弟、姉妹、お爺ちゃん、お婆ちゃんから見守られています。
「えっへん、えっへん。諸君、ガンバりたまえ!!」
〇☓国の王様はチョビひげで誇らしそうに子どもたちに声を掛けると、「〇」「☓」それぞれの旗を掲げた二隻の船は港を出発します。夜明けと共に、帆にたっぷりの風を受けながら。
一日目、順風満帆。
二日目、晴れ時々雨。
三日目、曇り。
そして四日目、とうとう嵐がやってきました。
港から遠く離れた海、真っ暗な空の下で波が激しく大きくなっては全てを呑み込もうとしています。
「〇号」の子どもたちは、幼いころから徹底的に教え込まれた「〇」だけを純粋に守って、荒れ狂う海の上で船を必死に守ります。
「☓号」の子どもたちも同様。小さいころから習ってきた「☓」の教えだけを健気に守って、船を港に戻そうと必死です。
それでは港では、と言うと。
海が嵐になった、と知ったお父ちゃん、お母ちゃんが喧々囂々の大騒ぎ。
「オラの息子は、ずっど〇だけ教えてきたから!帰ってくるのは絶対に〇号だ!」
「あんたのトコと違って、ウチの娘は☓だけ教えてきました。ですから…ですから、☓号が戻って帰るに決まっています」
「いいえ、〇号に決まっていますわ!」
「なんだと!ぜったいに☓号だ!」
それから一日経ち、二日経ち、二隻の船が帰らない港は次第にドヨ~ンと。淀んだ空気が流れていました。大人たちが子どもたちのために、と一所懸命太い木を切り倒して作った船のマストもあの嵐では…。ひょっとしたら、座礁して船もろとも海の中に…。お父ちゃん、お母ちゃんの頭をよぎるのは不安ばかりです。
それでも、人生経験豊富な◯☓国の長老は
「心配するな。オラの子供のころには嵐があってもたくさんの子どもたちが港に帰ってきた。信じれば良い。ただ、子どもたちを信じれば良い。オラたちの育てた子どもたちだ」
うつむいては悲しい顔のお父ちゃん、お母ちゃんたちの肩を、長老たちとお爺ちゃん、お婆ちゃんたちは一緒に叩いて回って励まします。お母ちゃんたちの目には、うっすらと涙が浮かんでいました。
五日目、船は帰ってきません。
六日目、やっぱり船は帰ってきません。
七日目、帰ってくる予定の日にも二隻の船は姿を現しませんでした。
不安はますます募るばかり。王様は気が気ではありません。
「えっへん、えっへん。どうなっておるのじゃ!!港で一晩中、寝ないで見張りを続けるのじゃ!!」
そうは言われても、見張り番の人夫だって嵐の日から寝ないで子どもたちの帰りを待っています。
「はい!王様!」
元気よく、それでも内心は渋々と人夫は返事をしたのでした。
そして、八日目の雲一つない晴れた朝。望遠鏡をのぞいた見張り番の人夫が大声を上げました。
「なんだ!?ひょっとしたら子どもたちの二隻の船か?」
伝令の人夫は大慌て。王様のところに駆けつけると、王様は大慌てで飛び起きます。これまた大慌ての家来に準備をさせて、真っ白い馬にまたがって港に駆けつけます。たくさんの家来も引き連れてきました。
遠く離れて見える海の上の小さな点、次第に大きくなるころには、心配で心配でいっぱいのお父ちゃん、お母ちゃんたちが港に溢れかえっていました。ソーセージ売りのおじさんもいます。
「ソーセージはいらんかね~。ソーセージはいらんかね~」
見張り番の人夫が、また大きい声を上げました。
「なんだ!?あの旗は!?」
王様だって不安で不安でいっぱい。
「だからなんだ?帰ってきた船の旗は?「〇」なのかね?「☓」なのかね?」
見張り番の人夫はおどおどと答えます。
「恐れながら、船の旗は「〇☓」です!!」
「えっ?なんだって!?」
王様は目をまん丸くしてびっくりです。
実は、「〇」を教えても「☓」を教えても、どうにもならない子どもたちの船「〇☓号」も出発の日の前日、長老たちの手によってひそかに港を出ていたのです。
長老たちの手によって送られたその「〇☓号」が、それぞれ「〇」だけ「☓」だけを教え込まれた子どもたちの船をピンチから救ったのです。だって偏りなく「〇」「☓」両方のことを知っているから。先頭の「〇☓号」に太いロープで曳かれる「〇号」「☓号」、それぞれの船は助け合うことも覚えて、誇らしげ。「〇☓」「〇」「☓」それぞれの旗を海風になびかせながら港にだんだんと近づいてくるたび、港は歓喜に包まれます。
「オラたちの子どもたちが帰ってきた!!」
「やっぱり、〇☓国の子どもたちだ!!」
「ソーセージはいらんかね~。ソーセージはいらんかね~」
お母ちゃんたちは目に大粒の涙を浮かべて、手を取り合いながら大喜び。王様も誇らしげです。
「えっへん、えっへん。さすが〇☓国のワシの子どもたちじゃ!!子どもたちには、ほうびをくれてやろう!」
それでは国の長老たち、お爺ちゃん、お婆ちゃんたちは、と言うと。
「ふぉっふぉっふぉつ…やっぱりな。ワシらの子どものころと、おんなじじゃのぉ…」
深いシワでいっぱいの顔をほころばせながら、人でいっぱいの港を後にした、とさ。
((おしまい))
by kenya-guitar
| 2015-12-14 17:49
| 小説
|
Comments(1)
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