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ハラヘリ帰宅して…

〈牧歌的(形動)〉牧歌のように素朴で叙情的なようす

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悩める若者達のためのNPO法人、私がギター講師として月に二回通っている市川の住宅街には四季折々、彩り豊かな花が咲いている。今の季節だとサルスベリのどぎつい紅色の他は、節電の影響もあってかゴーヤ、朝顔などだ。軒先に張られた漁網を蔦が伸びて良い日除けになっている。昨日は道を歩いていて、黄色いハイビスカスの花を見掛けた。オレンジに近い赤いハイビスカスは今までお目にかかった事があるが、黄色は初めてだろう。この暑さで歩いている人は殆どいない道端で、存在感たっぷりだった。

ところで、ここに来ると必ず入る食堂がある。ネパール料理屋だ。始まりが午後一という事もあり、そこで昼食を取って仕事場に向かう。注文するのはいつも同じで゛ネパール・タリ・セット゛。主に野菜や豆がスパイスに合わせてカレーや炒め物になってタリ(お盆)の上に乗っている。隣の国、インド料理に比べてスパイスがきつくなく食べやすいと思う。肉(鶏か羊)は少ない。メニューを見ると、他にはチャウミン(麺)やモモ(饅頭)など、中国文化圏に影響された食習慣もあるようだ。店内にはイチロー選手の写っているビールのポスターの他に、サイババの顔写真が飾ってある。もちろん、類にもれずネパールとインドの国旗と地図も。ネパールの国旗は日本の観光地で売られる土産物のペナントの様で、面白い形をしている。
ネパール人の店主に店で流れている音楽について訊ねると、ネパールの音楽をかけてくれた。インドの音楽とは明らかに違い、以前聴いたベトナムのものと雰囲気が似ていた。牧歌的でいて、どことなく長閑なアジアの農村を連想させる。

また来るよ…会計を済ませて店を後にすると、店主は屈託ない笑顔で送り出してくれた。


「よく行く場所」から

震災後の夏、三年前の風景。今、生きている人、もう亡くなっている人…このネパール料理屋はもうないし、一緒に行った人も…。「美味くない」を連発していたが、それも「美味かった」思い出のアーカイヴに。ネパール人らしき店主の笑顔と、あの人の笑顔。今夜は、冷蔵庫の中にあったゆで卵ひとつ、殻を剥いて食べました。
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by kenya-guitar | 2014-11-30 01:54 | 雑記 | Comments(0)

稲毛海岸のフチ子(22)

〈安堵(名)〉①気がかりなことが除かれ、安心すること。②垣根の内の土地で安心して生活すること。また、その場所。

ペンタトニックスケールは十分に練習した。そして肝心のメロディ、全部で16小節ある内の4小節ごとに区切っては練習して、更に8小節にまとめて。演奏出来る範囲を広げていく。他の教室から移って来たほとんどの受講者さん、ウクレレでメロディを弾く事に慣れてはいない。それでも、これまで何度も練習を繰り返したのもあり、七十、八十代の方もだいぶ弾けるようになった。

「それじゃあ、曲を丸々弾いてみましょうか…」

しかし、この教室に入りたての六十八歳女性は上手く出来ない。周りの八十代が出来るのを見るにつれ、いらいらを募らせている風にも見える。今練習している音楽もあまり変わりはしないとも思うが、今までやってきたハワイアンの奏法、それも高価な楽譜集を購入させられて培った方法との違いに戸惑いもあるのだろう。一緒にギターを弾きながら見ていると、演奏中に諦めて手が動かなくなる事もしばしば。その様子を気にしながら、歌詞をつけずに、何とか三番まで旋律を弾ききった。
曲が終わって沈黙…満足感、安堵も疲れも。微妙な空気、この静かな空間の中に散りばめられたそれぞれの感情。

「しかし、この歌詞は…うーん…エグいなぁ…」

続いて、コードを弾きながら歌う練習をしたかった私。あらためて、五線譜の下に書かれた歌詞を眺めていた。祖母の兄は戦争末期、乗っていた戦艦ごと海の藻屑と消えた。同じ町や村に住む近所でもそんなのは日常茶飯事だったろう。「戦争」に「死」はつきものだ。それでも黙って戦わなくちゃならない現実。そんな中、「静かな里」の情景が国民の気持ちに訴えかけたら…「昭和十六年十二月二十一日 NHK歌謡」の文字がやはり引っ掛かる。八十代女性が呟く。

「なんだか、しんみりする詩ですよねえ…」

八十歳男性と六十八歳女性。

「十六年だと、オレが七才の時だ」
「私はまだ生まれてはいないですけど…」
「やっぱり戦争の記憶は風化させちゃいけないよね」
「そうですよねえ」

二人は意気が合うようで、その当時の話を始める。あの当時、オレはどこそこにいて、私の父親は兵隊でも偉い方の部類だったのに、どうして今の日本はこうなったのか、やっぱり教育が悪いんだ…最終的にはそんな内容に落ち着く。テレビのニュースを観ていると今の若者には真の武士道精神が欠けているんじゃないか…と、盛り上がっているところで私は席を立った。

「それじゃあ、ちょっと休憩にしますね」


((つづく))
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by kenya-guitar | 2014-11-29 13:35 | 小説 | Comments(0)

稲毛海岸のフチ子(21)

〈毅然(形動)〉心のゆるがないようす。

スケールに続けて、ダイアトニックコードをひととおり練習したところで「里の秋」の譜面に全員で目を通す。ヘ長調、五線譜の上に歌のメロディ。その上にはコードシンボルが。下には三番までの歌詞が縦書き。隅には「昭和十六年十二月二十一日 NHK歌謡」と、書かれている。

「よく見ると…戦争中の歌、でしたか…」
「パールハーバーのすぐ後ですよ」

毅然とした口調、六十八歳の女性。詳しい、と言うよりも、歴史にうるさい。続けるギターの男性は八十歳。

「今の子供達は戦争の悲惨さを知らないからね」
「うーん…」

私も戦争を実際に体験した訳でもない。でも、この歌詞が真珠湾攻撃でアメリカに喧嘩を売った二週間後にラジオから流れたのか…その風景を想像するに小さな疑念も湧いたのだが。撃ちてしやまん、の時代のこの国、人々に寄り添ったメロディ、なのだろうか。

それでですね、と気を取り直し、五線譜の上を這っているおたまじゃくしの説明を始める。このメロディにはファソラシbドレミファの音階、「シb」「ミ」の音が出てこない。厳密には「シb」が一回だけ出てくるが。ペンタトニックスケール、四七抜き音階。それを曲のメロディの一番低い音と高い音の間のレンジで。全員で弾いてみる。

「ドー、レー、ファー、ソー、ラー、ドー、レー…戻って、レー、ドー、ラー…」

実際問題、ウクレレとギターが弾きやすい音域、良い教材とも思う。机を四角く囲んだ狭い教室。こうやって全員で揃って声を出しながら弾く弦楽器の生音は意外と大音量で、聴いていると、田畑が広がる路を自転車で行き交うカーキ色、人民服・人民帽姿の人々、ふた昔前の中国の音楽や、やはり農村地帯の湿地が続くベトナムの音楽、葦で作ったような末広がり円錐の帽子をかぶった泥だらけの男の周り、シャツ一枚に半ズボンで無邪気に遊ぶ裸足の子供たちのいる風景、幼い頃に自分の父親の田舎にいた牛の臭い…とにかく不思議とアジアの長閑な里の情景が目の前に湧く。

入り口のガラス越し、さっきの少女が両手のひらをべったりガラスにくっつけて教室の中を覗き込むのに気付いた。ガラスの中の教室では、ペンタトニックスケールに苦戦しているため、六人の受講者さんは自分達の楽器にいっぱいいっぱいだった。少女もガラス越しにこの音楽を聴いてはいるだろう。音階をただ羅列しただけのメロディ、ではあったが。

「あっ!?またいた」

スケールの練習を終えると、一人の女性が少女の存在にようやく気付く。他の受講者さんも一斉に振り向いたが、少女はふくれっ面を作ってぷいっと顔を反らし走って逃げて行ってしまう。

「はっはっは…また。しょうがないな」

会話の中の違和感、それでも少女も少女なりに感情を表して心を開こうとしている。分からないでもなかった。


((つづく))
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by kenya-guitar | 2014-11-28 16:43 | 小説 | Comments(0)

稲毛海岸のフチ子(20)

〈唖然(形動)〉あきれてことばが出ないようす。

ギター二本とウクレレ五本。教室に響いていたコードの音が鳴りやむ。全員の目が少女に集中した。

「あぁ…君か。ギターとウクレレの教室だよ」
「ふーん」

誘ってはいないが興味津々に入ってきた少女。お金を貰って運営する教室、生まれる軋轢を心配する。講師としては滞りなく進行させたい。しかし、その小さな好奇心の芽生えを無下にするのも…。少女は私の隣に歩み寄り、教室にいるおばあちゃん達を見回す。

「ここに座ってられるなら…おとなしくしてられるなら、見てても大丈夫だよ」
「ふーん…」

私が引いたパイプ椅子にちょこんと腰かける少女。ウクレレの女性。

「せんせぇの…娘さんですか?」
「いや…違いますよ。さっき初めて会った女の子です」

突然の見学者に困惑している様子。自分達よりも明らかに七十近く下、無理もない。が、とりあえずは落ち着いたので、さっきまで演奏していた続きを再開する。

「ええ、と…それじゃ、もう一度ダイアトニックコードを。keyはCでやってみましょう」

ドミソ、レファラ、ミソシ…コードに合わせた歌声。再び教室に音楽が響く。その間、私の隣に座る少女は落ち着きなく教室全体に目を泳がせている。ウクレレとギターがこんなにたくさんいる、普段体験する事もない異空間、それとも自分自身が異邦人になった気分があるかもしれない。そわそわし始めた少女は、コードが最終的にトニックのCで落ち着くと、おもむろに立ち上がった。

「ふーん…つまんない!」

再び、教室から出て行ってしまう。両開きの入り口は開けっ放しだ。

「なんなの…あの子…」
「はっはっは…まぁ、しょうがねえな…」

唖然とする受講者さん達。開けっ放しのガラス扉を閉めながら取り繕おうとする私。さっき覚えた少女への違和感が何なのか、頭の中で整理できた気がした。

「最近の子は、戦争の時代を知らないから…」

ギターの男性、「里の秋」の譜面コピーを持つ片手がぷるぷる震えている。いつもの事だが、怒っているからではない。それに応える六十代後半の女性。

「今はホントにね…家庭の教育がなんにも出来てない時代ですから。ウチの馬鹿息子なんかね…」

聞いたのは何回目だろう…独自の教育論を力説し始める。最初の言葉は必ず「ウチの馬鹿息子なんかね」だが、息子さんは東大卒で大手企業勤務らしい。それも以前、聞いた。いつもの話、八十代の女性二人は相槌を打ちながら、そうですか、と黙って聞いてはいる。最終的に落ち着くのは毎回、必ず年金に対する不満で…新渡戸稲造先生の武士道精神を受け継ぎ、若年人口が減ったこれからの時代、外国人労働者を積極的に受け入れないといけない、的な話だった。「学級崩壊」や「教室ジャック」でもないが、少女の乱入は思わぬ方向へと会話を導く。
五線譜に書かれた「里の秋」はヘ長調。音階をカタカナで、ファソラシbドレミファ、と黒板に白いチョークで書き始める私。

「それじゃあ、次。これやってみましょう」

六十八歳の女性はまだ喋り足りない様子ではあるが、黒板に書いて私が話し始めると他の受講者さんはウクレレを抱える。


((つづく))
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by kenya-guitar | 2014-11-28 12:26 | 小説 | Comments(0)

稲毛海岸のフチ子(19)

〈清貧(名)〉おこないが潔白で、びんぼうなこと。


スーパーで安く買ったお茶のペットボトルを手にして、教室に戻る。ほとんど七十以上の女性ばかり五人が集まっていた。机の上、一様に自分のウクレレを置き、楽譜を広げておしゃべりしている。

誰々さんと誰々さんはおやすみ、新しく入る予定の方は今日は来ない、と私に告げる女性はこのクラスでも古株。引き続きおしゃべりを始める。

近所で一番良い整形外科はどこそこだ、とか、でもあそこはかなり待たされる、とか、ここのところ気候が穏やかで過ごしやすい、とか…老いて抱える悩みは、つまるところその辺りで。生老病死の苦、は人間が人間である限り数千年前から変わらない。
それでもこのクラスの女性達は戦争が終わった頃に十代前半だったりの戦中・戦前生まれ。清貧や貧幸を実際に味わっている世代。父親兄弟や親類が招集されて、空襲から逃れ田舎に疎開したは良かったが学業もそこそこ、モンペにおさげ髪に鉢巻き締めて戦闘機の部品を作らされ、たまに来る爆撃機から逃れた防空壕の中で声をひそめて話して、男達の無事を祈るも、男達が紙切れ一枚になって帰って来たり。「使う言葉が綺麗なんですよね」女学校出のその世代を評した知り合いの言葉。もちろん、全員が全員ではなく、そういう人達が比較的多いというだけだ。だから小学校に二宮尊徳の銅像を建てて教育勅語を復活させろ、という話でもない。穏やかに過ごせる素晴らしさ、が身に沁みて理解出来るのだろう。

さっきお茶を買うついでにコピーしてきた「里の秋」の譜面を一枚ずつ渡しながら、十円ずつ受け取る。

「本当にこの曲、やるんですか?」

一番若い六十八歳の女性、入って二ヶ月目。ハワイアンが好きで、息子さんが東大卒で、銀座によく行く云々、とは聞いていた。が、いまいちこのクラスで演奏する曲には馴染めていないのも気付いてはいた。音楽を教えていて世代間音楽差のようなものをよく感じる。確かに他のメンバーは一回り上だ。色々なリズムのアルペジオなど、技術的にもやや難しい様子だ。

「この曲、やりたいって方がいたんで…やってみましょうよ。簡単に出来ますよ」

笑顔を作って返す私。うまく出来ない、もどかしさも一応、理解はしている。五人全員のチューニングをチェックし始める。

「せんせぇ、すいません…」

教室の始まる時間、挨拶の後、ハ長調の音階を練習しようとしていると、ギターの男性が慌てて入って来た。ソフトケースのギターを背負って、自転車に乗って来てくれる八十歳の人だ。ソフトケースから取り出したギターを受け取る。チューニングして返すと一緒に弾き出した。

「何やってんの?」

ダイアトニックコード群、スケールから生まれる七つの和音を続けて練習していると、さっきの少女が。全身に力を込めて手動の自動ドアを押し開く。また入って来た。


((つづく))
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by kenya-guitar | 2014-11-27 18:01 | 小説 | Comments(0)

稲毛海岸のフチ子(18)

〈鬩ぐ(自)〉①うちわもめをする。②おたがいに争う。

「えっ…ギター弾いてるんだよ」
「ふーん。何やってんの?」
「だからさ…ギターをさ…じゃあ、この曲、知ってる?」

小学生、だろうか…だとしたら、二年生くらいか。身長から推定したものの、なんとなく違和感を覚え…それは一体何だろうと考えながらそうやって返答するのに精一杯な私。自分自身、エチュードを弾く時間をまだ楽しんでいたかったのもあるが、実際に聴けば分かるだろう、と一枚目に戻ってソルの簡単なワルツを再び弾き始める。少女はパイプ椅子に座って、机に両手で頬杖えをつきながら私のギターを聴いている。が、落ち着いて聴いてはいない。ギターを弾きながら気付いてはいた。

「ふーん、つまんない!」

曲が終わる前に呟く彼女。

「つまんない!つまんない、つまんない!」

駄々っ子のように繰り返す。

「ふっふっふ…そうか。じゃあ、これは?」

自分の弾いたギターを目の前で聴いている人間から、つまんない、と言われて愉快な気持ちになる訳もないが…それをこの少女にぶつけるのも、それこそつまらない話だ。ナポレオン・コストの明るい曲を続けた。「結婚式みたいだよね」以前、これを聴かせた知人の感想。大団円、やや大袈裟に結末を迎えようとした。

「つまんない!」

またもやの駄目出し。後半部分をもう一度繰り返すはずだったのに…。わざと、なのか何なのか、彼女はほっぺたを膨らましてはふてぶてしい顔をして、私に理解不能な笑みを投げかける。それじゃあ、これは、再び弾き始めるコストのエチュードはバロックの様な雰囲気の暗い曲。じっとり埋めていく、緊迫したベースラインを繋げながら、それにせめぎ合うメロディを乗せる楽しさがある。立て続けに二曲弾いていると、電源の入っていない自動ドア、入り口が開かれた。

「せんせぇ、こんにちはー」

カラッと乾いた声。ウクレレの受講者さん、いつも早く来る七十代の女性だった。

「あっ…どうも…こんにちは」

ギターを弾く指を止めて、素に戻った私。挨拶を返す。気付くと少女はその女性の脇をするり、まるで猫のようにいなくなった。


((つづく))
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by kenya-guitar | 2014-11-25 10:38 | 小説 | Comments(0)

稲毛海岸のフチ子(17)

〈現像(名・他)〉(写真で)乾板・フィルム・印画紙にうつった像を、薬を使って見えるようにすること。

旧ペンギンショッピングセンターにて…(2)

誰もいない空きテナントで一人。ギター教室の前の静かな時間。あと十五分もすれば、一人、また一人、と受講者さんも集まってくるだろう。テナントの中は会議室にあるような机とパイプ椅子が…どちらも年季の入ったものだが、四角く囲んでいる。がらんとした部屋の中をもう一度見渡す。八人は座れる算段だ。高齢者ばかりのグループレッスン、初参加の人もいる今日は何をやろうか…考えながら、何気なくケースを開けてクラシックギターを取り出し、音叉でチューニングする。
ショッピングセンターのメイン通路に面しているこのテナント。小さなプラスチック看板が通路の天井に残されているところからして、元々写真屋だったらしい。今いる十畳ほどのこの場所に集った、昔のお客さん達。現像してもらいにフィルムを持って来たのだろう。ファインダー越しに見えたそれぞれの風景。今、私がいるガラスの向こうでは、高齢者や中国人の女がぱらぱらと行き交う。ギターを抱えて座るガラスの中の私を横目にして、老人用の手押し車にもたれかかってゆっくり歩いたり…。

ケースの底から何十枚もある楽譜を手に取る。その中の一枚、「里の秋」…そうだった、これをやってくれと七十代後半の受講者さんに言われてたんだっけ、と思いながらもクラシックギターのエチュードをコピーした束を。一番上にあるフェルナンド・ソルの曲を弾いてみる。無邪気で明るく、牧歌的なワルツ。この曲を弾いていると気分が和む、と言うよりも、毎日の様にこの簡単な曲を弾くからか、その日のコンディションが分かる。ほとんどが二百年くらい前の作品。没頭して一曲、また一曲、と短めのエチュードを弾いていると、電源の入っていない自動ドアが開けられたのに気付いて楽譜から目を上げた。

「何やってんの?」

少女が一人…さっきガチャガチャの前で立って、グラスの縁に座る女の子の人形を見つめていた少女だ。

「何やってんの?」

突然の来客に返す言葉もない私に臆する事なく、詰め寄って来た少女。ついにはギターを弾く私の隣にちょこんと座った。


((つづく))
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by kenya-guitar | 2014-11-24 10:55 | 小説 | Comments(0)

ちょっと休憩…

〈ジャメビュ(名)〉未視感。日常見慣れたものを初めて見たと感じる体験。統合失調症や癲癇で見られる。⇔デジャビュ

昨日、仕事が終わり帰宅、夕飯を作ってから団らんを囲み、家を出た。ペンギン村の隣にある古い神社の町。お社の裏手にある杜で、夜灯(よとぼし)前夜祭が開かれていた。

樹齢何年だろうか、古い松の樹に囲まれた広場。足元に置かれた無数の灯篭が暗闇に浮かぶ。一つ一つには地元の小学生が描いた絵、そしてそれぞれの想い。間伐材を使って作られた造形物が円を描き、単色のイルミネーションで光る。その中で相撲を取る男の子二人。そんな空間で光を浴びて佇んでいると、何か浮遊したものを感じて私自身もその中を漂っている感覚。祭りも終わり、無数ある灯篭の炎は消されて、再び暗闇が訪れる。我に帰る。見上げると、杜の向こう側、JR稲毛駅付近に建つ高層マンションの各戸の団らんの光が夜の空に浮かび上がった。不思議なコントラスト…ジャメビュ。




いつも『稲毛海岸のフチ子』を読んで頂き、ありがとうございます。大概、(退院後から)寝床にしているソファに寝転がって、ガラパゴスに打ち込んで書いているのですが、こんな私の文章でも読んでくださる方がいるのは有難いです。昨夜の稲毛浅間神社「夜灯」から帰宅して、思い付いた話です。今、目の前にしているこのblog、読みながら一緒に音楽が聴けます。もちろん無料。私の作ったインストゥルメント曲ですが…。以前、プロフィールの分類、『songs I love ~私の過ごしてきた時間~』で、soundcloudというサイトにジャンプ出来るようにしておきまして。一応、もう一度。

https://soundcloud.com/kenya-guitar



「プリンに醤油をかけて食べるとウニの味がする」とか、そういった類の話かもしれません。普段、娘には「ながら勉強はやめなさい」と勉強しながら聴くCDの電源を切ってしまう私ですが、今回ばかりは「ながら読み」を勝手にお勧めします。


それでは、仕事に行ってきます。皆さんも良い日曜日を!
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by kenya-guitar | 2014-11-23 12:22 | ギター | Comments(1)

稲毛海岸のフチ子(16)

〈腐臭(名)〉くさったにおい。

エレピのバロックはまだ流れ続けていた。溶け入るように女の踊りを見ていると、彼女の姿が拡大しては縮小してを繰り返す自分の意識を感じた。

「舞踏ですよ。舞踊じゃなくて…そういう生き方しか、出来ないでしょ」

隣に座る教授がボソッと。ぶっとい釘で打付けられたマグロの尻尾が、腐臭を放ちながら黄色いライトに照らされて油でギラギラ輝く、そんな話の途中だったよな、と思い出した。いきなりサイレンが鳴ったり。ずれた眼鏡を直しながら、貧乏芸人はそれに応じる。

「ディテールが見られてもですよ、骨組みが見えない人が多過ぎるんですよ」

いつもの高い周波数。「主体はブーメランである」トイレのポスターに落書きされた鉛筆の文字を思い出す。二十数年間、煙草の脂を吸った厚紙の色。それを遮る声はカウンターの中から。

「これがウチの料理です」

こんな店員、いただろうか…憶えてはいなかった。それでもせっかく出してくれたものだから、と手を出そうとするも、皿は哲学者の前へ。

「これは…かなり危険だなぁ…」

どうだ、他では食えないもの出してやったぞ、ふてぶてしく自信過剰なくらいの口調で出された生焼けのレバーを一口食べて、呟いた社会学者。残りを箸でつつき皿の中で転がすも、箸を静かに置き、諦めて腕組みして俯いている。エレピだったらChickだろう、と内心思っているとアンソニーは゛dolphin dance ゛を弾き始める。そうだった、それもあったよな…゛children's song ゛でも弾くかと期待していたさっきの自分。女はいつの間にかいなくなっていた。

「ハッハッハ…Happy Birthday!!」

炸裂する笑い声、真後ろを振り向く。背広を着てネクタイを弛めた男達が、際どいミニスカートを履いた女達に囲まれ騒いでいるのを遠目に見た私は、そのグループに近寄ってみた。


((つづく))
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by kenya-guitar | 2014-11-22 11:34 | 小説 | Comments(0)

稲毛海岸のフチ子(15)

〈場末(名)〉町の外れ。

繁華街にて…(1)

無国籍料理屋に入った。何時くらいだろうか、外も中も暗い。深夜なのは確かだ。屋号もあるのかすら分からないこの店、音楽を毎夜演奏していた。既に今夜はライヴが終わったのか、ステージ上にはアンソニーと呼ばれる細身のアフリカ系が一人座る。Fender Rhodesでバッハを演奏していた。きっと彼も終電を逃したのだろう。昔観た映画、アメリカの田舎町、場末の酒場での情景にどこか似ていた。ステージ脇にあるトイレの前には水槽があって、薄暗い店内、ドラゴンフィッシュがゆったり泳ぐ姿が蛍光灯の光に照らされている。客も何人いるのか、数える事も諦めて、揺れ動くトーン、エレクトリックピアノで奏でられるバロックに耳を傾けていた。

女が一人、店に入るやステージ前で立ち止まった。歳は三十を越えているだろうか、四十は越えてないだろうか、今一つ分からない。化粧せず日焼けした顔、強い眼光。自分でハサミを入れているのだろう横真っ直ぐに切った前髪、全体的に乱れたショートカット。ベージュの色のベルクロのスポーツシューズ、地味なグレーのスウェットパンツ。上半身は、若者向けの古着屋と言うよりは家にたまった不用品を何でも寄せ集めたリサイクルショップで手当たり次第買った古着、サイズを考える事もなく。それらを重ね着している。よくいる音楽ファンのファッションは大概は煤けた様な色のシャツにジーンズだが、その女のそれは一言で無秩序だった。今風の若い娘が着る様なシャツ…それでも古いが…の下に中年の女が着る様なワンピースを重ね着している。年齢を推察する手掛かりがまるで無い。

「今夜は踊れますか?」

ノグチさんに話しかけている。

「いつもどういう場所で踊るんですか?クラブとか?」

私は近付いてきた彼女に聞き返した。

「クラブは行った事あるけど別に好きでもなくて、あぁぁ…繁華街にある外国人の溜まり場…あそこは気持ち良かったぁ。でもね普段は庭で踊っていて…そう、家の庭。sex pistolesだとかred hot chilli peppersをかけながら朝から一日中ただ踊るの。本当に気持ち良いぃ」

本当に気持ち良いぃ、と、ひきつった声で発した時のとろけんばかりの表情。しばらくうっとりと中空を見上げていた彼女、ピントが合ったのか。真っ直ぐなものが瞳の奥に宿るや、アンソニーがエレピで弾くバロック音楽に合わせて踊り始める。それは街中で、だぼだぼのファッションに身を包んだ若い男女が軽快なヒップホップに合わせて踊る様なものではなく、観た事のない面妖な踊りで…。例えば高層ビルの柵もない屋上や、噴煙の上がっている活火山の噴火口の様な場所ででも踊っている風景を想像させた。なんのために踊っているの、と彼女に問うのも馬鹿馬鹿しく思えてくる。既にスポーツシューズも脱ぎ捨て裸足、上半身はキャミソール一枚。ブラジャーも着けていない彼女の胸が透けて見える。踊りの技術、もちろんそんなものを熟知している訳でもないが、それを超越した表現を直感的に受け止めた。店の天井から吊るされ回転するミラーボールの無機質な光は彼女の恍惚とした表情と、細い首筋を浮かび上がらせる。死の淵、を感じさせる踊り。儚く美しい。


((つづく))
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by kenya-guitar | 2014-11-21 00:00 | 小説 | Comments(0)


ギタリスト鈴木健也の雑記帳


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