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自然に産まれたメロディ (1)



 何日か前に感動したこと、なんとなく人さまに伝えたくなった。

 ここ一年以上、ペンギン村にいる家族と離れて独りで暮らしている。テレビも冷蔵庫も、電子レンジもパソコンも洗濯機もない。ギターしかない部屋。駅から近くの安アパート。隣はお墓、と言うよりお寺。ギター講師の仕事をしながら、毎日いろいろな方に接して、それだけで充実している。ちなみに音響機器もない。


 仕事も終わり、千葉の繁華街にあるロックBAR、静かな平日の夜にギターを弾いていた。音階、ここ最近お気に入りの組み合わせを即興で弾いていた。自然と、どこかの国の音楽のようになる。ロックではないけれど、ウィスキーのソーダ割を飲みながら。
 カウンターの中で黙って聴いてくれているママさん、じきに店に入ってきた女の人たち。自然に会話が生まれる中、ずっと弾いていた。それでも長く居るうちに、なんとなく居たたまれなくなりギターを持って店を出た。終電で。今住む私の町へ。

 雨上がりの夜中、駅を降りると誰もいない街。ギターを駅近くの私のスタジオにそっと置いて、てくてくと。辿り着いたコンビニの前で開けたハイボール缶。繁華街の雑踏を抜けて、静寂と暗闇に自分を浸していた。濡れた舗道をギラギラ照らす街路灯は、月明かりの真下にあって。近くの神社の杜だろう、こんな夜中に蝉たちがわなないている。それはそれで良いサウンドなのかもしれない。

 ふと、高くキレイに響くメロディが聴こえてきた。なんだろう、酔狂な、迷惑だろう。こんな夜中なのに。コンビニの目の前の住宅街で誰かが楽器を練習しているんだろうか。

 思わず歩き始めた。コンビニ前の信号をハイボール缶片手に。まるで二十代の頃に聴いたトリニダードドバゴのスティールパンのような音色、それが奏でる美しいメロディが徐々にボリュームを上げながら耳にふくらんでくる。

 不思議なことに、総武線下をトンネルのように抜ける道路、その歩道に入ってから、そのメロディは一層音量を上げていく。エコーもより深く。車は一台も通っていない。道を照らす蛍光灯に重苦しさは全くなく、住宅街を外れていく。すぐそこの大きな神社の傍を抜けるトンネルは大雨の時には冠水して、今いる一段上がった歩道、酔いの回った頭でも幻聴じゃあないよな、自分を確かめながらただ歩いていた。



((つづく))
 
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# by kenya-guitar | 2016-08-21 01:27 | 雑記 | Trackback | Comments(0)

悲しい夫婦



「生まれはどちらなんですか?」

 一年以上ぶりに髪を切るため飛び込んだ初めての美容室。鏡の前に座る私は声をかけられて目を開いた。鏡の中には三十分前と違う髪型の私がいる。いやぁ、世田谷なんですが、父母はもともと東北の出身で、しかも千葉のほうが長いし…見馴れない髪型、ずっと静かにしていたため発した言葉もどこかたどたどしい。美容師の方は修正するように髪の毛を切ってくれている。

「世田谷は私も長い間住みましたけれど、良い場所ですよねえ」

なんてことは無い会話が膨らみ、この歳になると自然に囲まれた場所に住みたい、という私の結論に達した。最近お気に入りの場所は、小高い丘に畑が広がる古い集落。ハクビシンや野ウサギもいるし、野鳥もたくさん。静寂に包まれているようで、賑やかだ。一生そこに暮らしたいとも思う。

「野鳥、って言えばハクチョウがいるの知っていますか?」

ペンギン村から花見川沿い、上流に向かって五kmほどの町、まだ新しい橋が架かっている。瑞穂橋。そこにつがいのコブハクチョウが仲良く住んでいるのは知っていた。昨年の夏から、雪降る冬まで、通るたびに場違いなその夫婦を気にして眺めていた。

「最近、一羽消えたらしくて、ハスノハナ区役所に電話で問い合わせた方がいたんです。どうしたんだと思います?」

ずいぶん暇な人間がいたものだ、でもオレも暇な類の人種だよな、とか内心考えながら、ハクチョウに聞いてくれって言われたんじゃあないですか、と返す。美容師の方は鏡越しに髪の毛を梳かしてくれている。

「それが…」

つがいの片方、一羽のコブハクチョウが近くを走る高速道路の車道に飛来して不時着。大渋滞が起こったらしい。そうなると管轄は道路公団なのか、が捕獲して、どこか遠い場所に放してしまった、と。待ちわびる妻と帰れぬ夫、もしくは待ちわびる夫と帰れぬ妻、のコブハクチョウ。いずれにしても、そのシチュエーションは悲しすぎる。自宅は花見川瑞穂橋の橋の下、の芦原だ。そうでしたか…私は他に何も返す言葉が出せなかった。

 今現在、瑞穂橋にいるコブハクチョウは一羽だけ、だそうだ。だとしたら、その夫婦に私は何をしてあげられるのだろう。明日から、橋の欄干に幸せの黄色いハンカチを一枚ずつ結び付けようか、とも思う。いつか“健さん”ハクチョウが無事に戻ってくる日を祈って。
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# by kenya-guitar | 2016-04-13 22:11 | 雑記 | Trackback | Comments(0)

新しいシーズン



 四月初旬の週末、ペンギン村駅近くの芝生公園は花見客で賑わっている。まだ明るい夕方、穏やかな晴れの日中よりもやや肌寒い。1kmくらい先の浜辺から流れてくる風が桜の木を撫でては花弁を一枚、また一枚と落として芝の上に散っている。花弁が舞う向こう側ではゴザを敷いた上に若い父母が歓談していて、その向こうにいる子どもたちは皆、楽しそうにボールを転がして遊んでいた。時折、甲高い笑い声がキャッキャと耳に飛び込んできた。ギター講師の仕事も終えた私はそこからやや離れたベンチにひとりで座る。近所のスーパーで買った缶ビールを開けると乾いた音が。少し飲んでから、梶井基次郎の『桜の樹の下には』をふと思い出した。得体の知れない憂鬱、だったか。
 さっきとは別の男の子たち三人がフリスビーを目の前で始める。風に揺られて浮遊する円盤をしばらく眺めていた。一羽のカラスも芝の上に着地する時に黒い翼に風をたっぷりとつかんでいた。

 明るい内のビールは美味いが、酔いの回りも速い。何も考えることなく、ただその公園の風景にしばらく身を委ねていた。この中に溶け込んでいる気はするものの、決して透明人間になっている訳ではないのだろう、と。久しぶりのフロート感で、目の前にある大画面で流れる平和な映像をぼんやり観ている、そんな時間だった。現実味は無いけれども、平和なのは確かな様子だ。

 タバコを一本、煙を眼で追うと、空を這っている雲が視界に入った。キャンバスの上に荒く硬い刷毛で擦ったような雲、上空でも高い層のそれを背景に、低い層では塊になったいくつかの雲が海風に煽られている。うすいねずみ色がゆっくりと流れている。ゆっくりゆっくり、形を変えながら。
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# by kenya-guitar | 2016-04-12 15:50 | 雑記 | Trackback | Comments(0)

小雨降る2月の日に


「実は主人が去年、亡くなったんですよ…」

60代半ばだろうか、女性は食堂のテーブルを布巾で拭きながら呟くなり、力なくうつむいた。いつから働いていらっしゃるんですか、と私が訊ねたすぐ後の答え。今日みたいな冷たい雨が降る日、精神疾患の方々を就労支援するNPO法人での会話。私はそこで気分障害を抱える方々に、やる気を促せるようギターを教えている。

 先ほどの女性、テーブルの上の手の動きがやや緩慢になると共に、眼鏡がくもった。こういう施設での仕事は、ボランティアに近い上、身体的・気持ち的な疲労も大きい。それでも、ご主人が亡くなってからも女性は気丈に続けたのだろう。
「君みたいな人間でも戴ける仕事なんだから、有り難いんだよ、頑張りなよ…って、主人が言ってくれたから」
最早、私も彼女を直視できなかった。うつむきながら、ただうなずいた。

「被害者は加害者で、加害者は被害者で」
昨日話をしたあるカウンセラーの言葉。ある悩みも、実は前の世代から受け継いだものの反発が起因していて、それを周囲にしてしまう。そして、それを知った自分を責めてまた悩み。だったと思う。
 そういう意味では、さきほどの女性は辛い状況ながらも人様を支えることによって、自らを癒して。ただそれを実直に続けて、一言で健気(けなげ)さを感じた。それを一人一人がバトンタッチしていくことでしか、世の中は変わらないんだ、と思う。

 我が家の近所、葉っぱを全て落とした銀杏の古木、寒々しいのだが今日の午前中に10分くらい立ち止まって眺めていたのを思い出した。

 さて…私も今日やれることをやろうか。
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# by kenya-guitar | 2016-02-22 17:13 | 雑記 | Trackback | Comments(0)

2016年2月のある日…


 ペンギン村の河口から5kmほど、花見川をさかのぼった川沿いの道は私のお気に入り。海鳥も水鳥も、里山で見かける野鳥も悠々と羽根を休めたり、餌を探したり。一昨日のように晴れた週末は、子どもたちが公園でボールを転がしていて。自転車を走らせていると、自分がこの広い冬空に浮かぶ雲の下で生かされている実感が身体を温めてくれる。コートに当たる硬い風の冷たさとのコントラスト。芝生の上を歩き回るツグミが、例年よりまるまる太っている気がした。暖冬だからなのか。本来ストイックさ溢れる野の鳥なのに。

「こんなもの毎日、無料で配信されているよ。ダウンロードはできないけれど…本当はダウンロードして所有できるものなんて何一つないのかもな」

メールで親しい友人に送ると、空に無限に広がっているから所有する必要はないよ、色即是空空即是色、云々と返信があった。昨年の三月に東日本大震災追悼の声明コンサートを観てたどり着いた気持ちを思い出した。私のギター教室に通ってくださった、野田にあるお寺のご住職はお元気だろうか。色々と深いお話を私にしてくださった。またお会いしたいなぁ。


 youtube上に転がっている映像、まだありました。一昨年の十一月、千葉にある外国人が集まるBARで、私が進行役を務めていたアコースティックギターのイベントに来てくれたツトムさんとのセッション。Gypsy Kings の曲を転調して軽く二人で、なシチュエーション。その年の五月辺りにした丸刈りもだいぶ伸びた時期。


https://www.youtube.com/watch?v=-etuUa43v2w


 ギターを弾く自分が、自分の中でようやく受け入られた感じがあった時期で、ツトムさんと演奏するのが純粋に楽しかった。最後に私、下駄みたいな顔で笑っていますが、体重は110kgくらいでしょう。使っているギターは沖田ギター工房で作って頂いた KENYA モデル(兄)です。現在、工房内に入院中で、代わりに(弟)が娑婆で活躍しています。ご覧になってみてください。
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# by kenya-guitar | 2016-02-09 16:06 | プロフィール | Trackback | Comments(0)


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